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35.フェイクニュース ~アメリカから見た日本~

2017年 第2号  - 三鬼 康 -

  •  近所に「コメット・ピンポン」と言うピッツァ店がある。

コメット・ピンポン

  •  行きつけの本屋のならびでよく前を通るが入ったことはない。ひっそりしていて繁盛しているとは思えないからだ。この一風変わった店の名前がある事件で全国に知れ渡った。
  •  昨年12月のこと、ライフル銃を持った若い男が店に押し入って発砲した。「俺の目で確かめて子供たちを助けて来る」と言ってノース・カロライナの家から6時間もぶっ通しで車を走らせ、ライフル銃と拳銃に沢山の弾薬を抱えてワシントンのピッツェリアに押し入った。
  •  ところが来てみると、目当ての子供などは見当たらず地下室も地下道もない。店の従業員を銃で恫喝しただけで全くの空振りに終わった。おとなしく逮捕された彼は警察の取調べに少女売春の網に囚われている子供たちを救うためにやったことだと説明した。

  •  警察には店の主人などから執拗な嫌がらせ電話や脅迫メールが入るようになったことがすでに訴えられていたことでもあり、犯人がインターネット上の偽ニュースを真に受けて実力行使におよんだものと判断された。
  •  エドガー・ウェルチ、28歳は二人の幼い女児の父親、生物学者の父とボランティア消防士の母、そして叔母も近くに住んでいて、あのスイート・ビッグ・ハートの子に何があったのか、事件のことが信じられないと口をそろえて言う。
  •  裁判ではこの男の善意は認められた。
  •  しかし武器を持って乱入したうえ器物に損傷に加えた、風評を確かめもせず軽挙妄動に及んで社会を不安に陥れたとし、同種事件の抑止の意味をこめて特に重い4年の入獄となった。
  •  最近になってこの小さな事件は「ピッツァゲート」とか「ロシアゲート」などと呼ばれている。もちろんあのウォーターゲート事件をもじったものだ。
  •  この事件は、ヒラリー・クリントン候補の選挙資金参謀がたまたま店を訪れたか、「コメットピンポン」の主人とどこかで知り合ったか、その種の仔細な情報が悪用されて標的にされた模様だ。
  •  これにヒラリー候補の側近、フマ・アベディーン女史の私生活がからむ。
  •  ファースト・レディーだったヒラリーにホワイトハウスのインターン生として仕えた中東情勢に明るい若い女性で、以来20年の間にヒラリーとは母と子のようだと自他共に認めるほど親密になる。ところがクリントン夫妻の仲人でフマが結婚した相手、アントニー・ウェイナー元議員が問題を起こした。
  •  この人はとかく世間の耳目を集める人柄だ。ニューヨーク市長に立候補するが落選、その後、少女わいせつ行為が暴露された。ヒラリーの大統領選挙運動のさなかのことで、この5月には有罪が確定している。
  •  ヒラリーの選挙資金に小児売春の金が流れ込んでいる、という情報はこうした事実に誰かが尾ひれをつけてインターネット、交流サイトの海に放ったものだろう。
  •  あのウェルチ君はこのように仕組まれた情報に動かされた被害者だ。
  •  ドイツでも事実無根の女学生誘拐、暴行、殺人事件が中東からの移民申請中の男性の名前を使って流布されたり、オランダ、フランスの選挙でも相手候補者の中傷誹謗が交流サイトで流布されており、ヨーロッパでは早くから偽情報は「ロシア発信だ」という証拠をつかんでいた様だ。
  •  最近、プーチン大統領もロシアの愛国者がしたことだと言い、政府の関与はもちろん否定している。
  •  さて、大統領がFBI長官を突然首にしたことをきっかけに、トランプ政権誕生以前の幹部とロシアとの関係に注目が集まるようになり、トランプ・プーチン陰謀説まで聞かされるようになった。
  •  これがロシアゲートだ。
  •  このことは空騒ぎだけで終わってほしくない。
  •  ことが重大だからからこそ、欠陥をなくす方向に視点と関心を移す必要があるのだ。
  •  言うまでもないが、何でもディジタル化できれば、本とか写真集と違って情報保存、備蓄は無制限、切り取り、加工も自由自在、殆どの情報は衛星を使えば無線でしかも時間差無しで世界中に伝達できる。
  •  今では何でもエレクトロニクスだ。だからこそソフトウェアの現状に注目が集まる。
  •  この道のプロが言うには、電子メール、交流サイト、通信販売、預貯金管理、などなどの開発にはお金が掛かる。
  •  ホスト企業はまず目的を設定、次につながりの仕組みをデザイン(アルゴリズムと言う)、これを実験して良ければシステムとして固定して世に出す。良心的な技術者ならばシステムを完璧な状態で納入したいところだろうが、企業側は投資回収を早めたい、他企業との競争に勝ちたいがために未完のまま運用しようとする、のだそうだ。
  •  この世界では、不具合は金儲けしながら直せばいい、という文化が定着していると言っていい。だから、私たちが頼っているインターネット・クラウドは穴だらけ、間違いだらけの未完成品の集合体と見るべきだという。
  •  実態を知る者にはシステム上の穴や弱点を見つけることは難しいことではない。他人の情報を覗いて盗んだり、すり替えや成りすましで人を騙したり、お客に知らせずテキスト会話をロボットにやらせて個人情報をせしめて悪用したり、会社や役所のシステムにビールスを注入、サイバー攻撃して壊したりする「ハッカー」の遊び場のようだ。

  •  情報にまつわる事件が後を絶たないのは、インターネット・クラウドの現状があまりにもお粗末なためだと言われている。
  •  今後の情報犯罪の摘発と防止、交流サイトなど公の「プラットフォーム」の質の向上を目指すのなら、最低でもホストや情報発信者はロボットや架空の名ではなく、責任能力ある実在の氏名くらいは明確にしておいてほしいものだ。
  •  交流サイトの代表格「フェイスブック(facebook)」の創設者ザッカーバーグは当初、世界中が一つにつながる場を提供するのが目的、したがって偽情報の流布などは個々人の良識と道徳の問題で自分の責任範囲を超えると言っていた。

  •  しかし、最近になって世論には逆らえず反省して、不良情報除去率などを発表するようになった。
  •  アメリカには先取り特権を樹立することが自由主義市場経済で成功する秘訣だと信じる人が多い。
  •  競争至上主義とお金儲けに軸足をすえたビジネスマンの倫理観と価値観は薄っぺらだ。
  •  仮に日本に、そして世界にもすんなりと受け入れられるようでは、あの世でミルトン・フリードマンがほくそ笑むだろう。


(2017年6月30日)


 

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