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30.私の交遊録其の2(2/6)

  • 愛すべき愉快な我悪友諸氏

  • 第二話「寡黙の人」

 2016年第3号  - 猩猩 梅原 陽介 -


  •  我人生の心の支えに成ってくれたおかしくも個性豊かな面々・・・
  •  平成28年2月21日、筆者は、72歳を迎えます。平均寿命からすれば、残す処6年、次の申年には、遠き旅立ち完了と云う事に成ります。
  •  辞世の句は、少しばかり早すぎますが、友への感謝の意を込めて・・・。
  • 我を通し、意を以ってした幾星霜、
  •            ご恩を受けし友思幾人、
  •                 花は花なれ、人は人なれ
  • 平成28年2月某日猩々詠

 

  •  人は、誰でも一生のうちに、たとえ一時であったとしても、何人かの友を持つものであります。筆者にも一方ならぬお世話になった友があります。
  •  友と云うものは、親友と悪友があります。親友はもちろんのことでありますが、悪友と云うのもまさに人生の肥やしの如く意味深いものであります。
  •  筆者はこんな悪友をこよなく愛しています。
  •  そんな愛すべき悪友の面々を、故郷へ帰ってから出会った順に、紹介したいと思います。

「寡黙の人」

  •  次は、仁ちゃん(70才)です。壮年の松山千春のちょっとそっくりさん、戦国武将なら黒田如水。

 

   
(左)松山千春 と (右)黒田如水(黒田官兵衛)

 

  •   仁ちゃんは、同級生でも町内でもありません。
  •  昭和45年9月に筆者は、一念発起の自宅を新築いたしました。その時の付帯工事に温水器、クラー、などの工事業者として工事をしてくれました。その際に業者の助手に来ていたのが筆者の高校の同級生。
  •  そんな関係で、仁ちゃんとも馴染みに成り、その後も工場の電気関係やメンテナンスで面倒を見てもらうようになり、付き合いが深くなったのであります。
  •  こんな話があります。
  •  仁ちゃんは、地元高校の機械科を卒業し、地元の大手建設会社に就職しました。が早くして独立し、電気工事会社を設立しました。
  •  と云っても、自宅を事務所にした社長一人の一匹狼の電気工事店です。
  •  数年の間に仕事量を増やし、自宅では手狭になり、表通りに店舗を構える事に成りました。
  • と云っても商店街や駅近くの繁華街ではありません。
  •  仁ちゃんの狙いは、将来を考えて府道沿いの交通量の多い処、つまり、工事車両の出入りがスムースで、店の看板が良く見えて、将来隣地の購入が容易に出来る処であります。
  •  彼は、最初から商売プランを以って始めていたのであります。
  •  ここが彼の賢さであります。
  •  仁ちゃんは、大を好みません。
  •  「・・でないと」を目指していました。
  •  つまり、拡大ばかりを求めるのではなく、我社でなければ、と云う

「余人を以って、代えがたい」

  • を旨としたのであります。
  •  規模は小さくてもいい、お前の仕事をして欲しい、そんな顧客を求めたのであります。
  •  以来45年、山あり谷ありの業界を、自身のポリシーで貫き通してきました。
  •  従って同業者との軋轢は、何度となくあった事でしょう。そんな中を、ぶれる事無く自の電気技術職人道を通して、今日まで来たのであります。
  •  敵も作りましたが、味方も多くいました。だから人望も厚いのでしょう。
  •  今年8月、息子に会社を譲って第一線を退いた。
  •  仁ちゃん古希である。
  •  筆者は彼と何度かもめた事があります。
  •  しかし仁ちゃんと口論をした事はありませんし、掴み合いの喧嘩をした事も有りません。
  •  それは、筆者ではなく彼が賢かったからであります。
  •  仁ちゃんは知っていました。
  •  腕力では自分が勝が、理屈では私が勝つ事を・・・。
  •  仁ちゃんはきっと私を失いたくはなかったのだと思います。
  •  わたしも勿論そうでした。
  •  こんな話があります。
  •  口数の少ない彼が、奥さんに云ったそうです。
  • 「陽ちゃんの言うことは、今は無くても3年後か5年後には、必ずそう成る」
  • またある時、奥さんが言ったそうです。
  • 「お父さん知ってますか、陽介さんは、親の葬儀にも行かなかったそうですよ」
  • 「勝手に言わせておけ、陽ちゃんには陽ちゃんの事情があるんや。お前らぁが、とやかく言う事や無い、わしには分かる」
  •  有り難さが込み上げてきます。
  •  「沈黙は金なり」であります。
  •  特に駄弁を弄する筆者には・・・。
  •  仁ちゃんは、その時々の趣味があります。
  •  若い頃は、海釣り(チヌ)、中年にはランチュウの飼育、今は、畑に精を出しています。農協の生鮮市場にも品物を納めています。「晴耕雨読」とはいかないまでも、結構幸せなんでしょうね。時々、我が家に仁ちゃんの作品作物を送って来てくれます。嬉しい顔をして頂いております。
  •  仁ちゃんには、秘めたる話しがあります。
  •  こんな負を背負ったからこそ、仁ちゃんの人生が、辛抱強く、たおやかなる事を願ったものに成って来たのであると思います。
  •  仁ちゃんは、一度離婚をしています。間には、男の子が一人います。
  •  ここで居ましたではなく、いますと云うのは、仁ちゃんの人生の中には、この子の存在が何時もあったということであります。筆者はそう思っています。
  •  それは趣味の変遷が語っています。
  •  外の子が小さい間は、遠くへ出かけていく海釣りでありました。それは、現家族を離れて考え事をしたかったからでしょう。それは現家族に迷惑をかけたくないと云う優しさなのでしょう。
  •  そして、外の子が落ち着いてくるにつれて、身近な趣味(ランチュウの飼育)に代わってきました。
  •  そして今は、みんなで一緒に、楽しめる、菜園から始まって農業に変わって来たのであります。
  •  仁ちゃんは、子供が成人するまで養育費を払い続けるという、責任を約束していました。
  •  裁判でそう成ったと云うことではなく、仁ちゃんの人生のけじめとして、自分自身が架けた人生の負荷であったのであると筆者は思っています。
  •  七五三、入学、卒業、合格、成人、などなど、仁ちゃんは、その都度どれ一つ欠くことなく、その時出来得る限りの努力を、歳月無く続けて来たのであると思います。
  •  仁ちゃんは、その時々に、なんとは無しに筆者に語ってくれていました。その時の、嬉しくも有り寂しくも有る優しさの中の厳しさのある何とも形容のしようの無い顔をしていました。
  •  しかし最近、会心の笑顔を見せてくれました。それは、
  • 「陽ちゃん、電話がかかって来たんや。「結婚します。相手に出会ってください」喜んで会いにいって来たんや。よさそうなよい子やった」
  • と、本当に安堵した、嬉しい顔でありました。
  • 筆者は、
  • 「それは良かったなぁ」
  • 仁ちゃんは、
  • 「うん」
  •  それで全てが分かるのであります。
  •  そんな仁ちゃんが、時々会食に誘ってくれます。
  •  そんな時は「日々是好日」と心が嬉しがっています。取るものも取りあえず夫婦で出かけます。

 
 


「彼は彼、我は我、されど仲良き哉」
武者小路実篤

 
 

  •  彼との出会いが無かったら、今のまどろみは無かったでしょう。

 


平成28年2月 猩々記

 

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