京都弁護士会所属 田中彰寿法律事務所 京都の中堅・中小企業のための法律事務所

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31.私の交遊録其の2(3/6)

  • 愛すべき愉快な我悪友諸氏

  • 第三話「人間万事塞翁が金儲け」

 2016年第4号  - 猩猩 梅原 陽介 -


  •  我人生の心の支えに成ってくれたおかしくも個性豊かな面々・・・
  •  平成28年2月21日、筆者は、72歳を迎えます。平均寿命からすれば、残す処6年、次の申年には、遠き旅立ち完了と云う事に成ります。
  •  辞世の句は、少しばかり早すぎますが、友への感謝の意を込めて・・・。
  • 我を通し、意を以ってした幾星霜、
  •            ご恩を受けし友思幾人、
  •                 花は花なれ、人は人なれ
  • 平成28年2月某日猩々詠

 

  •  人は、誰でも一生のうちに、たとえ一時であったとしても、何人かの友を持つものであります。筆者にも一方ならぬお世話になった友があります。
  •  友と云うものは、親友と悪友があります。親友はもちろんのことでありますが、悪友と云うのもまさに人生の肥やしの如く意味深いものであります。
  •  筆者はこんな悪友をこよなく愛しています。
  •  そんな愛すべき悪友の面々を、故郷へ帰ってから出会った順に、紹介したいと思います。

「人間万事塞翁が金儲け」

  •  次は、奉ちゃん(72才)北島三郎氏しか唄わない戦国武将なら斎藤道三。

 
(左)北島三郎  (右)斎藤道三

 

  •  彼は同級生です。子供の頃にはそれほど親しい友達ではありませんでした。
  •  処がひょんなことから旧交を温める事に成りました。
  •  そのひょんな事とは、先の仁ちゃんの店舗移転の時でした。
  •  新しく借りた家に仁ちゃんの荷物を運んで行った時のことでありました。
  •  家主さんがまだ残っていた荷物を運び出しておられました。
  •  当たり前のようにご苦労さんですと声掛けをして、ご挨拶をさせてもらったところ、一人の御仁が、
  • 「あのー、ちょっと聞きますが、おたく、梅原さんやないですか」
  • 「はいそうですが」
  • 「やっぱりそうか、陽ちゃん、わしやわしや奉やがな」
  • 「えっ奉ちゃんかいな、いかにもいかにも奉ちゃんや、懐かしいなあ」
  • 「なんでまた」
  • と、云うような事で再会し、依頼親交を深めていったのであります。正に合縁奇縁であります。
  •  奉ちゃんは、中学を卒業して、家電大手東芝に就職しました。
  •  工場で毎日毎日同じ仕事の繰り返し、上司にはガミガミ言われて、うまくいかない。それでも頑張れば、大企業や何とかなるやろと将来を楽しみにしていたのでありますが、何時までたっても一番下、上は増えて行くばかり、こんなことではどうにもならん、何とかせねばと、一念発起、手に職を付けよ、考えに考えたのが、散髪屋の職人。
  •  何で散髪屋かと云いますと、彼なりの理屈がありまして、まず、自分は勉強が足らん、だから、勉強や、云うても、机上は苦手、それでは、社会勉強や、給金もらえる仕事で、手に職が付く、自分に合っていて勉強が出来る。それは職人や。料理人か、大工か、左官か、いろいろ考えて絞り切ったのが理容師やったと云う事です。
  •  どうしてかと云うと、奉ちゃん曰く、理容師は最初からお客の前に出してもらえる、出してもろたら話が出来る。話をさしてもらえたら、いろいろな情報がいただけて社会勉強になる。他の職人には、これが無い。これが奉ちゃんを理容師に駆り立てたと云うことでした。成程一理あるところです。
  •  こうして奉ちゃんは、周りの反対を押し切って理容師に成ったのであります。
  •  今度は、何処の理容院を選ぶか、知り合いの出来た東芝の近所か、地元に帰ってか、理容学校へ行くか、奉ちゃんは、地元を選びました。
  •  理由は、先ず、理容学校に行くお金がない。
  •  奉ちゃんは、給料のほとんどを家に仕送りをしていたので貯金などは皆無に近かったのです。家に帰れば生活費が最少で済むし給料を家に入れる事が出来る。
  •  そこで選んだのが、知人の紹介も有って、福知山の理容院でした。
  •  その理容院は老舗の理容院で地元の名士が良く利用していたのであります。
  •  奉ちゃんは、持ち前の人柄と勉強熱心が功を奏し、どの人からも好かれたようです。
  •  取り分け可愛がってくれたのは、大槻欽三さん、この人は、皆さんご存じのボラギノールを開発した天籐製薬の社長さんであります。(製造・天籐製薬、販売・タケダ薬品)
  •  更に一人は、佐藤治平衛さん、この人は、地元大型店スーパー「さとう」の社長さんでありました。
  •  理容の修業をしながら奉ちゃんは、このお二人を始めお客さんから多くを学びました。
  •  東芝時代には学べなかった生きた社会勉強ばかりでありました。
  •  しかし、理容の仕事を一通り修業したところで、奉ちゃんは考えました。
  •  これでは、将来が開けてこん、職人では駄目だ。
  •  商売や、先を開くためには、商売をせなあかん、親父も商売をしてるんや、と営業に目覚めたのであります。
  •  早速、親方に其の事を話し早々に暇を頂き、その足で本の訪問販売の会社に社外営業員として就職し、家業を手伝いながら営業の勉強を始めました。そして親父の店頭商売の店に外商を作り、自分が外商の責任者として、大いに羽ばたいたのであります。
  •  そんな時に筆者と再会したのであります。
  •  奉ちゃんは、同級生の筆者に一目置いてくれて、何でも相談をしてくれました。
  • 「陽ちゃん商品を売るためには、何が必要なんや」
  • 「そら営業努力やろ」
  • それはわかっとるんや、それ以外に何なんやろ」
  • 「それは商品知識やろ、今あんたが売ってる商品は、うわべの商品宣伝文句だけやろ、実が無いわなぁ」
  • 「ほんならどうしたらよいんや」
  • 「それは現場を勉強する事や」
  • ほな、給料いらんで、僕をここで使うてくれへんか」
  •  こんな調子で奉ちゃんは、どんどん突っ込んできます。
  •  そんなこんなで奉ちゃんは無給で3カ月ほど非常勤で我社に勤務してくれました。
  •  こんなことも有りました。
  • 「陽ちゃん新車に変えたんや、けどもう一つ目立ちたいんや、何かないかなあ」
  • 「そやなぁ、インパクトをなあ」
  • 「ちょっと待って今のはなんや、インパクト云うのはなんや」
  • 「そやなあ、見た時に、目にドーンと入って来て印象に残る事やなぁ」
  • 「ほんなそれや、どうしたらよい」
  • 「うーん、ボディの横に横文字で、ワーキングウエアと入れたらなぁええと思うで」
  • 「それもオリジナルデザインしてな」
  • 「そうかちょっとどんな字や、ちょっとここに書いて」
  • と云って、引かないので、デザイン画を書いて渡すと、あくる日には、ちゃんと仕上げて持ってきて、奉ちゃん得意気に・・・
  • 「陽ちゃん、みんなあびっくりしとるで、これなに書いたるんや、云うてな」
  • と云った調子であります。
  •  ですからうっかりしたことは言えません。私の言う事は、全て正しいと思ってくれていたのですから。
  •  嬉しいやら、びっくりするやらであります。
  •  こんな事も有りました。
  •  皆さんのご存じだと思いますが、商店街には、夏になると夜店とか夜の市と称して、夏の夜の売り出しをします。
  •  でも奉ちゃんの商店街には、賑わいがありませんでした。
  •  それでなんとか一番の商店街で催しに参加したいと思って、地域一番の商店街の役員に掛け合ったのですが、返事は「ノー」。
  •  商店街の会員ではないと云うのがその理由。
  •  そこでまたまた筆者に相談。
  •  出した提案が、奉ちゃんの商店街と一番商店街の角地に店を出すと云うものでした。
  •  奉ちゃんは、露天商の免許を持っていたので警察で許可証をもらい、その角地の往来で露店をしたのであります。戸板の上に一流メーカー(銀の価格、金の品質で有名なG社)の下着を戸板に乗せて叩き棒を振って下着の叩き売りをするのであります。
  •  これには一番商店街も文句は言えず、役員連が遠巻きににしているだけでありました。
  •  しかし、同じ商品を扱っている商店が黙ってはいませんでした。G社に連絡、即刻店舗の撤去を申し入れてきました。
  •  流石の奉ちゃんもこれには頭が上がらず、閉店せざるをならなくなりました。
  •  おさまらないのは奉ちゃん、早速、筆者の処へ出て来て、
  • 「陽ちゃん何とかならんのかなぁ」
  • 「奉ちゃん、まあ待ちないな、ビックリするから、二、三日待ってみな、奉ちゃんの胸スッキリさせたげるから」
  • 「なんや、なんや、なんなんや」
  •  それから二日後、新聞の見出しには「G社独禁法違反」と出たのであります。
  •  奉ちゃんが、新聞片手に現れました。
  • 「陽ちゃん、これかぁ」
  • 「奉ちゃん、それではあかんか」
  • 「陽ちゃん、これは、わしの店で成ったんか」
  • 「ちがうちがう、そんなことはないわな、もっと大きなところで、自由販売を禁止して、買値売値規制をしとったんやな」
  • 「そやろなぁ、ビックリしたでぇ、そんなこと陽ちゃん知っとったんか」
  • 「奉ちゃん、これが情報ちゅうもんやで、これからは、情報が一番の時代やなぁ」
  •  又、こんな事も有りました。
  •  JC主催の地域活性化事業の一つとして物売りの実践をやった時のことであります。
  •  我社の開発商品「ウオームアンダー」というベストスタイルの冬場のゴルフ用下着「1800円」を『2着お買い上げの方には、G社の商品、どれでも一品差し上げます』と云うものでした。
  •  普通なら、一流商品お買い上げに粗品が付くのが当たり前、その逆であります。
  •  しかも、オマケの商品は、並んでいる者からお好みを・・・。
  •  並んでいる商品は、「銀の価格、金の価値」でお馴染みのG社のものばかり、価格も670円の丸首長袖綿百%の商品から3800円のラクダの股引まで、売れました、売れました。
  •  この前の戸板事件でクレームを付けて来た卸店から次々と仕入れるのでビックリした店長がそっと見に来た位でした。
  •  結果、一日半(14時間)でG社製品の仕入れが42万円の売り上げでありました。
  •  以来、卸店の見方も大きく変わったと云う事です。
  •  一言、JCメンバーで売り場スタッフだった歯科医の藪先生、曰く
  • 「商売って面白いもんやなぁ、物売りがこんな面白いもんやとは思わなんだわぁ」
  • 「あかんあかん、こんな日ばっかりやない。せんせいヤブでも、歯医者の方が、よっぽど儲かるでぇ」
  •  そんな会話でその場は大笑い・・・。
  •  因みに、この藪先生、筆者の歯を虫歯を抜きましょうと云って、治療を始めたものの途中で折ってしまい、抜けなくなって、口腔外科へ転送、転送された先の歯科医がまたこれ大藪先生、ノミと金づちで叩いて筆者の歯茎は粉々、以来、歯医者トラウマで20年、歯医者行かずに成ってしまいました。
  •  先ごろ、どうにも歯が痛んで、インターネットで探した、一応名医と評価されている歯医者に行くと、これは大変と治療をして頂き一年がかりで何とか食事が出来るようになりました。
  •  こんな藪でも商売に成る歯医者、そら儲かりますわなぁ。名前が悪いのか、腕が悪いのか。
  •  あっ、思い出しました。
  •  藪医者の彼、私に借金があるのです。
  •  彼が学生時代に拙宅で行ったマージャンの負け一金3800円也、35年前ですから時価に直すと・・・なり。
  •  まあこれも、我愛すべき悪友の一人なのでありますかな。
  •  と云いながら話は戻って。
  •  そんな奉ちゃんも、方向転換を余儀なくしなければならない時がやってきました。
  •  一度目は、バブル崩壊で株価が大暴落した時でした。
  •  奉ちゃん突然あらわる。
  • 「陽ちゃん、大暴落や、どうしよう。銀行の借入金も有るしなあ」
  • 「なんや、金借ってまで、株買っとったんか。アホやなぁ、」
  • 「全て売ったら勘定はどうなるんや」
  • 「マイナスにはならん。今なら、少しやと思うけど」
  • 「なら売ってしまわなあかん」
  • 「えぇ損するなぁ」
  • 「何云うとんねん。奉ちゃんの損は、最初の買い値やないやろ、高値の時での売値やろ、買値で損得計算してそれで合うなら売りやで、仮に損に成ったとしてもやで、少々の損はこの際我慢せな」
  •  意気消沈の奉ちゃんは、それでもまだ躊躇しているようでしたが、腹を決めたかのように
  • 「そうか、そうやなぁ、ほんなそうするはなぁ」
  • 「かたい株、優良株は、出来るだけ置いたらよいがな」
  • その差が出たら、おふくろさんの寝床でも作ってあげたらよいんや」
  • 「それもそうや、この際思い切るわ」
  •  そう云った奉ちゃんは「えらい」
  •  その通りにして利差やでおふくろさんの部屋を作ってあげたのです。
  •  その頃、おふくろさんは体調を崩していて、寝たり起きたりの状態だったのです。
  •  奉ちゃんも
  • 「陽ちゃんの陰で、おふくろに良い事がしてあげられたわ」
  • と喜んでくれました。
  •  これも奉ちゃんの頑張りと決断の賜物でしょうね。
  •  その後、奉ちゃんの仕事も軌道に乗って、中古の家を買いました。
  •  それもおふくろさんの為でした。
  •  奉ちゃんもえらいもんです。その他に弟に家を一軒買ってやったと云う事です。
  •  しかし、人生山あり谷ありです。奉ちゃん曰く、
  • 「人生は、上り坂に下り坂、他にも、ま坂との坂がある」
  • そうです。
  •  何処かの誰かもそんな事を言っていましたね。
  •  そんな時です。新しい家に移って4年ほどたった頃、おふくろさんが亡くなりました。
  •  どうぞこうぞやっていた店も、日に日にさびれて行きました。
  •  それでも何とか成っていた店が、とうとう生き行き詰まってしまったのです。
  •  これには流石の奉ちゃんも・・・・。
  •  久しぶりに、筆者のところへ出てきました。
  • 「陽ちゃんいよいよ店も締めなあかんように成って来たわ。どうしたもんやろ」
  • 「そうか、いよいよ来たか、ここで思い切って考える事は・・・それはともかくとして、生活して行く事考えななぁ、どうや、このビルの管理人をしたら」
  • 「管理人かぁ、いっぺん考えてみるは・・・・」
  • と帰って行ったのでありますが、夕刻再度出て来て云うには、
  • 「商店街で店をしてたものが店閉めて、ビルの管理人、そんな恰好の悪いこと出来ん」
  • 云う奥さんの弁である。
  • 「陽ちゃんせっかくやけど・・・・」
  • 「奉ちゃん、何云うとんや。そんな嫁はん里へ帰せ、何を恰好つけとんや、そんな時やないやろ、ビルの管理人のどこが恰好悪いんや」
  • 「ほんでもなぁ、嫁はんの言うのにも一理あるしなぁ」
  •  奉ちゃん、何時になく、弱気でありました。
  •  わたしは、たたみかける様に云いました。
  • 「奉ちゃん、よう考えてみいや、今一日、何んぼの売り上げが有るんや」
  • 「いやあ、はずかしいけど、無い日の方が多いわあ、売れる時でせいぜい1万円や」
  • 「そんなら、三日に1万円で、1日3300円、純もうけ1割で3日で1000円、一日330円やでぇ、此処に来てたら一ヶ月10万円程度やで、日割りで3300円、と云うことは、毎日33000円の売り上げやで、と云う事は、1日に3300円の儲けやで、現実を考えてみなよ。商売人の嫁が何を言うてんのや、あほちゃうか」
  • 「身一つで働いたら、仕入れはいらん、売り上げはいらん、資金繰りもいらん、その上給料が入ってくるんやで、こんな結構な事は無いやろなぁ」
  • 「そうや、そらそうや。もういっぺん嫁はんに云うてみるで、明日まで待ってもらえんやろか」
  • 「それは分かったけど。それにしてもこの期に及んで世間体云うとるような奥さん・・・・・、奉ちゃんも苦労するなぁ」
  •  翌朝、奉ちゃんは、引き受けたいとの返事を持ってニコニコして出てきました。めでたしめでたし。
  •  これで奉ちゃんは、一息ついたのか、今度は、私のアドバイスを取り入れて、外資系の損害保険をする事に成りました。
  •  筆者が属していた、団体の保険であれば信用も有るし団体の利にもつながってきます。
  •  奉ちゃんの持ち前の図々しさと勉強熱心が功を奏して、損害保険の仕事が軌道に乗り、成績もうなぎのぼり、保険会社の担当者も驚くほどでありました。
  •  奉ちゃんは、3年余りで関西地区のトップグループセールスマンにまで上り詰めました。奉ちゃんのグループ勧誘員も会社組織も含めて四者に成りました。
  •  勢いに乗った奉ちゃんは、おふくろさんが亡くなって、親父さんが亡くなっておふくろさんに買ってあげた家を売って、高台に土地を買い、間もなく家を新築しました。
  •  そりゃもう大変な勢いです。
  •  筆者はその勢いに感心するばかりであります。
  •  奉ちゃんのすごい処は、何時も我利を考えているところです。
  •  我田引水が過ぎて、些か人望に欠けるとことが・・・筆者の気に成るところであります。
  •  それに、まことに持って残念なのが、奉ちゃんの自宅を訪ねても未だに件の奥さんからお茶の一杯頂いたことはありません。
  •  まだ、奥さんは、根に持っているのでしょうかねえ。
  •  それとも、もともと気遣いのない人なのでしょうかねぇ。
  •  それとも筆者の人徳の低さでしょうかねぇ。
  •  そんなことより、奉ちゃん万歳。
  •  我利我利行こうぜ。生きてる限り、金は大事やでえ。
  •  でも、

引き寄せる水は流れる

  • との例えがありますからご用心ご用心。


 
人を見たら泥棒と思え、されど、渡る世間に鬼は無し

  • 彼は、私に世間を教えてくれました。




平成28年2月 猩々記

 

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